CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 164th ゴールデン街をコミさんと

 私は、カウンター内側で、まな板の上を歩くゴキブリの峰打ちに線ねんするようなふりをして、客たちの話に耳を傾けていたのであった。
 その結果、解って来たのは、成功者は相手の不運に対して鈍感だということだ。大して、まだ陽の目を見ない者は、自分の不運に対して敏感なのである。
山田詠美ゴールデン街をコミさんと」
『私のことだま漂流記』より

 山田詠美は若い頃、ゴールデン街の一角で働いていたことがある。その時の回想をしたシーン。様々な人が集まるそのお店で、詠美さんが見聞きしたことが書かれているのだが、その中でもぼくが印象に残ったのはこの部分。
 この文章を読んで、ぼくは、以前『メイク・ミー・シック』というエッセイの中で、似たような場面を読んだことを思い出した。
 彼女がバーでホステスで働いていた時、俳優として成功した人がお客としてやってきた。その時、その場にいた詠美の同僚の一人が裏で悔しさで打ち震えていたというエピソード。その同僚もまた役者志願の一人で、その俳優がその場にいることで、自意識過剰になってしまい、いたたまれなくなったという。「NOTHINGという腫れもの」
 その悔しさこそが、その人をより成長させるものだというのはとても簡単だ。
 しかし、現実はそう簡単にはいかない。
 でも、それでも、ぼくたちはそういう自分の境遇を受け入れなくてはならない。
 上記の文章を読んで、ぼくは改めて、そういう想いを強くした。
【DATA】
山田詠美ゴールデン街をコミさんと」
講談社『私のことだま漂流記』
KEN'S NIGHT M5レフィル<方眼円盤集>
KEN'S NIGHT 1st Track 03 Fly Me to the Moon