CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 162nd 無銭優雅

 こうして、ひとりの男を待つのはいいもんだ。確実に帰って来るであろう男の不在は、何よりの鎮静剤だ。私は帰って来るかどうか解らない人を待ち続けた経験が何度かある。その時の焦燥感は耐えがたいものだったけれども、やがて慣れた。それと同時に、その人に対する思いも薄れた。
山田詠美「無銭優雅」
『無銭優雅』より

以前女友だちと、片想いは恋愛か?という話をしたことがある。その女友だちは、片想いでも立派な恋愛だよ、と断言していたのだが、ぼくはどうにも腑に落ちない。片想いは片想いであって、決してそれは恋愛とは呼べないんじゃないか、そんな気がしてならなかった。そして、やっとなぜぼくはそういう風に思うのか、この詠美の文章を読んでわかった。
帰って来るかどうか解らない人を待ち続けるのは、やはり苦痛でしかなく、そこにエクスタシーというか、満足感のようなものは得られないのだ。その状態を楽しむほどぼくは達観していないということなのかもしれない。
ぼくはつい数年前まで3年間想い続けた男がいた。しかも遠距離。それはそれはつらかった。もちろん、片想いでも良いと思い込んでいた(自分にそう思い込ませていた)部分もある。でも、今となって見れば、なんであんなに執心したんだろうと不思議に思ってしまう。
片想いをするくらいなら、いっそのことそんな相手すらいらないと今は思っている。
まぁ、でもね、恋はいつだって予測不能。恋はするものじゃなくて、墜ちるものだから、片想い大魔王のぼくは、またいつどう気持ちが変わるかわからないけれども…。
いくつになっても、自分は恋愛下手だなぁと思ってしまう。
【DATA】
山田詠美「無銭優雅」幻冬舎文庫『無銭優雅』
KEN'S NIGHT M5レフィル<彩色音楽集>
KEN'S NIGHT 1st Track 05 When You Wish upon a Star