CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 158th 4U

 男が長いことつかっていたバスタブの残り湯は、はたして、スープか。桐子は、バスルームを掃除するたびに、そんなことを考える。どういう味がするのだろうと、ふと思う。しかし、飲んでみたことはない。もちろん、飲みたいとも思わない。ただ、彼に関して知らないことは、まだあるのだなあ、とため息をつきたい気分になる。男の本質は、寝てみれば解る、というのは大嘘だ。あんなことも、そんなこともして、人間に知性なんてやつが、本当に存在しているのか⁉ と、呆れかえるような行為にも身を任せてみたが、結局のところ、知り尽くしていたという実感は何もない。
山田詠美「4U」
『4U(ヨンユー)』より

詠美の小説はまず冒頭の一文から心を持っていかれる。それはデビュー作の「ベッドタイムアイズ」の時から一貫している。

この短編の冒頭も同じだ。
でも、その発想は決して突飛なことではない。
愛する人の入ったお風呂の残り湯をスープになるか、というのは、ちょっといくら愛していても、変態チックに感じられる趣もあるが、でも、わからないでも、ない。
共感できるのは、その後に続く文章が納得できるものだから。
その昔「骨まで愛して」という曲があったのを思い出した。
どんなに愛し合っても、本当の意味で相手を知り尽くすことはできないけれども、それでも愛さずにはいられない関係というのも良いものだ。
【DATA】
山田詠美「4U」
幻冬舎文庫『4U(ヨンユー)』
KEN'S NIGHT M5レフィル<夜景摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 01 Blue Moon