CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 57th 「ベッドタイムアイズ」

 スプーンと視線が合った瞬間、私は自分の思っていた事を彼に悟られたような気がして下を向いた。再び顔を上げた時、彼は私の視線を捕え出口の方へそれを移動させた。私はそのまま何かにとり憑かれたように立ち上がり、連れの男にレストルームで用を足して来ると言い残し、ゲームルームの外に出た。扉を開けると廊下の壁に寄りかかり今度は両手をポケットに突っ込み、まるでチンピラのように私を待っていた。
「ベッドタイムアイズ」『ベッドタイムアイズ』より    

『メイク・ミー・シック』の「瞳の効用」を読んでから、ぼくは詠美の作品の出会いの場面に注目するようになった。
すると、登場人物たちが瞳を絡ませることから始まることが多いことに気づいた。
このシーンもまさにそれ。
さらにこの中で、スプーンは彼女を外に連れ出すことに成功しているのだ。すごいな…とぼくなんか思ってしまう。なかなか日本ではそういうシーンに出くわすことはない。
一度やってみたいとは思っているけど…。なかなか、難しい。何年たっても、日本では視線を動かすだけで、人を移動させることなんか、できないんじゃなかろうかと思ってしまう。

【DATA】
山田詠美「ベッドタイムアイズ」
新潮文庫『ベッドタイムアイズ・指の戯れ・ジェシーの背骨』
KEN'S NIGHT M5レフィル<流星摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Bonus Track The First Time Ever I Saw Your Face