CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 153rd 雨の化石

 感傷に浸るのは、大人の男のすることではないなあと、ぼくは思うのだ。だから、ぼくは、自分の心の内に生まれる甘いしずくのような思いをひとに伝えることはない。ぼくは、人前では、ロマンを表わすような言葉を用いない。涙ぐみたくなるような感情の霧が内側に広がる時、ぼくは、さっと目をそらす。それでないと、ぼくという人間は、いつまでも、それを味わってしまい呆けた表情を作ってしまうのだ。ぼくは、美しいものが、とても好きだ。美しくて、はかなくて、哀しみを含む故に、喜びを増して輝く、そんなものたちが大好きだ。
山田詠美「雨の化石」
『120%COOOL』より

初めてこの短編を読んだ時、冒頭のこのシーンが強烈に印象に残った。なんて美しい雨の表現なんだろうと思ったのだ。しかも、タイトルは「雨の化石」、だ。
山田詠美の文章は流麗でありながらも、無駄がない。それだけに、的確な言葉でぼくたちの心をしっかりととらえてくれるような気がする。
美しさとは何か。山田詠美にとって、その美しさは表面的なものではない。そこには、はかなさや哀しみが含まれ、さらにそれによって喜びが増すものなのではないだろうか。
それを雨の情景になぞらえて表現している。
雨は確かにうっとうしいものだし、雨の日は憂鬱になるが、詠美の手にかかると、そんな雨もロマンティックに感じられる。(それでも外出時の雨はうっとうしいことはうっとうしいんだけどね)
【DATA】
山田詠美「雨の化石」幻冬舎文庫『120%COOOL』
KEN'S NIGHT M5レフィル<雨景摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 06 My Favorite Things