CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 113rd「否定形の肯定」

 さて、人は、何故、恋愛の最中に否定ばかりしてしまうのであろうか。そして、その否定は、何故、皇帝の言葉であってはいけないのであろうか。そして、その否定形の肯定を最も多く用いるのは日本人であるようだ。日本語ほど、否定をもって肯定を強調する言語はないように思う。そこには、必ず、強い自意識が存在している。自分は、ここにいて、他人に注目されるのを待っている。そのことが否定形の肯定を作り上げるのだ。つまり、相手あってのものである。
「否定形の肯定」    
文春文庫『快楽の動詞』より    

『快楽の動詞』は実験的な小説である。小説?エッセイ?というような不思議な感覚を読者に与える。詠美がある一つの言葉について、あれこれと考察をしているのだが、それが実に具体的で面白い。
上記の文章は、実直過ぎる主人公の男性に翻弄される女性が描かれているのだが、そのやり取りが実に面白い。
今でいう空気が読めないというか、相手の言葉の裏をまったく読まずに、言葉通りに受け止めてしまうことから起こる悲喜こもごもが描かれているのだ。
そういえば、Ace of Baceというスウェーデンのポップバンドの曲に「Tokyo Girl」というのがある。
その歌詞が面白い。

Her "Yes" is "no",  "no" is a "maybe"
Her langage is so hard to lern

彼女の「イエス」は「ノー」という意味で、「ノー」は「多分ね」という意味
彼女の言語は習得が難しい

というような内容。
なるほどね!そうだよね!と詠美のこの小説を読んだ時に、この曲がまっさきに思い浮かんだ。
かくして、実に複雑で面白い言語なのだ、日本語というのは。
    
【DATA】
山田詠美「否定形の肯定」
文春文庫『快楽の動詞』
KEN'S NIGHT M5レフィル<夜景摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Track 7 Stars Fell on Alabama ※ラメ入り