CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 46th「ジェシーの背骨」

彼の手は洗濯機のせいで冷たく湿っていた。その手が彼女の首筋を撫でる時、彼女は石鹸の匂いを嗅いだように思う。外の空気で冷たくなっていたリックの体が彼女の体温を吸い始めた時、彼はやっと彼女の恋愛教本にある正しい翌朝の過ごし方を実行し始めた。
ジェシーの背骨」より

山田詠美の初期の作品には、詠美の実体験に基づいたと思われる小説がいくつかある。この「ジェシーの背骨」もその中の一篇。
妻子ある黒人の男性と知り合い、ひょんなことから彼の息子と同居生活を始めるという内容の話で、この作品では、その息子との関係が描かれている。
この作品はのちに「トラッシュ」という長編小説へと形を変えるのであるが、「トラッシュ」は黒人男性との関係を中心に描かれたのに対し、「ジェシーの背骨」は、その息子との関係が中心で、双方を読み比べてみるのも面白いと思う。
こちらの方は息子との関係が中心とはいうものの、やはりその父親と恋に落ちた瞬間のことも描かれていて、そんなところに詠美節が感じられる。
上記のシーンはまさにそんな山田詠美らしい筆致で描かれている。

【DATA】
山田詠美ジェシーの背骨」
新潮文庫『ベッドタイムアイズ・指の戯れ・ジェシーの背骨』
KEN'S NIGHT M5レフィル<流星摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Bonus Track Frozen