CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 109th「魅力的な無作法」

 食事をしている時、男の子の唇にソースが付いた。私は茶目っ気を出して、そのソースおいしいのと彼の唇に付いたそれを手を伸ばして指ですくって舐めた。すると、その男の子は、にやりと笑って、こう言った。
「唇に付いたソースは唇ごと味わわなくてはわからないよ」
 で、彼はテーブル越しに私に口づけた。それが、二人の初めてのキスだった。
「魅力的な無作法」    
集英社文庫『メイク・ミー・シック』より    

「メイク・ミー・シック」はメンズノンノに連載されていたエッセイだ。だから、若い男子に向けて書かれた内容が多い。ぼくが詠美を読むようになったのは25歳の時で、当時ちょうど二丁目で本格的に遊び始めた頃だった。
それだから、余計にこの本はぼくにとってのバイブルのようなものだった。二丁目に向かう地下鉄の中で、ジーンズのポケットに忍ばせたこの文庫本を読みながら「今日はあの街でどんな出会いがあるだろうか?この本に書かれているようなスタイリッシュな男子になるにはどうしたら良いのだろうか?」などと考えながら読むことが多かった。
お酒は飲めないけど、飲めないなりにスマートにバーで飲む楽しさを覚えたのは、ひょっとしたらこの本によるものが多いのかもしれない。
もちろん、詠美はお酒好きなので、そんな下戸のことを指南するような内容では一切ないのだが、それでも、そんなぼくでも参考になるようなフレーズはあちこちにちりばめられていて、それが結果的に今の自分につながっているような気がしてならない。
上記のシーンを読んだ時、なんてかっこいいんだろうって思った。と同時に、DNAに日本の文化が刻み込まれているぼくなんかは到底できないだろうな、という想いもあった。ただ、そういうシチュエーションにはとても憧れた。
実際にはそういうことはできないけど、そういう心持ちでいることはできるわけで、そういうマインドを知るということはとても大切なんじゃないかって思った。
【DATA】    
山田詠美「魅力的な無作法」    
集英社文庫『メイク・ミー・シック』    
KEN'S NIGHT M5レフィル<赤色日本景>    
KEN'S NIGHT 2nd Track 3 The Girl from Ipanema ※ラメ入り