CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 30th 「WHAT'S GOING ON」

 私は守られている。そして、それが私の求めた結末なのだ。アイダは夫の手を握り返した。夫の手は大きくてやさしく、未知の部分がなかった。私はこれが欲しかったのだ。彼女は自分にそう言い聞かせた。それにしてもロドニーの声や匂いは、昔の日々に対する欲望をアイダの胸に呼びさました。

「WHAT'S GOING ON」より

『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』は、山田詠美直木賞受賞作である。
今の山田詠美の作品を読んでみると、どう考えても芥川賞作家的作品が多いと思われるのだが、当時はどうしても、大衆小説的な面ばかりがクローズアップされて、(何度も芥川賞にノミネートされながらも)直木賞を受賞することになったような気がする。
山田詠美の作品の面白さはその表現方法にあると思っている。例えば上記の部分にしても、「夫の手は大きくてやさしく、未知の部分がなかった」や「それにしてもロドニーの声や匂いは、昔の日々に対する欲望をアイダの胸に呼びさました」といった表現は詠美にしか書けないのではないだろうか。
そして、それらの文章が読者の胸にフィットするからぼくたちはそういう表現を求めて詠美を深く深く読み込んでしまうのだ。
直木賞作家と芥川賞作家には大きな違い(これは大衆小説と純文学の大きな違いにも共通するのだが)があるとぼくは思っている。直木賞作家はストーリーで読ませるのが上手な作家に与えられる賞だと思う。一方芥川賞作家はストーリーよりも文体で読ませる作家に与えられる賞なのではないだろうか。
そういう意味では山田詠美は明らかに芥川賞作家的なのだとぼくは勝手に思っている。

【DATA】
山田詠美「WHAT'S GOING O」
幻冬舎文庫『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』
KEN'S NIGHT M5レフィル<彩色音楽集>
KEN'S NIGHT 2nd Track 6 Autumn Leaves