CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 82nd 「賢者の愛」

 そして、今、女は、どぎまぎしながら真由子に美しい男を紹介されているのです。いえ、直巳を簡単に美しい男と呼んでしまうのは語弊があるかもしれません。彼の美しさは、最大公約数としての美とは、あまり重ならないのです。目に飛び込んで来る種類の美ではなく、根に染み渡るような美とでも言ったら良いでしょうか。共有する時間の経過に沿って見る者をとりこにして行く美なのです。    
「賢者の愛」『賢者の愛』より

「賢者の愛」もぼくは山田詠美のホラー小説だと思っている。谷崎潤一郎の「痴人の愛」へのオマージュとして書かれているが、ぞっとするような場面がしばしば登場する。
上記のシーンもそうだ。
だが、ここで注目したいのが、山田詠美の描く美しい男の基準である。
それは「根に染み渡るような美」と表現されている。
なるほど、美というのは人によって感じ方が違い、確かに詠美の小説に出てくる美しい男達というのは、一般的な美しい男とは少し違っているような気がする。
それをこういう表現を使っているところに詠美の文章の巧みさを感じる。

【DATA】    
山田詠美「賢者の愛」    
中公文庫『賢者の愛』
KEN'S NIGHT M5レフィル<流星摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 04 Night and Day