CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 69th    「健全な精神」

「彼女は、わりと賢いな。心身共に健康なのは、もちろん良いことだが、無駄がなさ過ぎて退屈なんだと言いたいんだろう。時田、いいかい、世の中の仕組は、心身ともに健康な人間にとても都合よく出来てる。健康な人間ばかりだと、社会は滑らかに動いて行くだろう。便利なことだ。でも、決してそうならないんだな。世の中には生活するためだけになら、必要ないものが沢山あるだろう。いわゆる芸術というジャンルもそのひとつだな。無駄なことだよ。でも、その無駄がなかったら、どれ程つまらないことだろう。そしてね、その無駄は、なんと不健全な精神から生まれることが多いのである」    
「健全な精神」『ぼくは勉強ができない」より    

女子高生を描いた作品が『放課後の音符』だったら、男子高生が主人公なのが『ぼくは勉強ができない』で、ぼくはこのふたつは対になった山田詠美の学園小説だと思っている。
特に『ぼく勉』(ファンの間ではそう呼ばれている)は主人公の時田秀美の目を通して、何となく学校生活で感じる不条理のようなものが描かれているところにおもしろさがある。
そこにはいろいろな登場人物が出てくるのだが、中でも秀美の一番の理解者でもある桜井先生の言動は大人となったぼくにとっても共感しかない。
前からずっと思っていることなのだが、日本という国は文化をないがしろにしてきたところがある。
国立劇場が作られたのだって、たかだが50年ほど前のことだということからもいかに日本が芸術というものに無頓着だったかということがわかる。
久々に桜井先生のこのフレーズを読んで、無駄だと思われる芸術というものをもっと大切にしなきゃいけないんじゃないかって改めて思った。

【DATA】    
山田詠美「健全な精神」    
新潮文庫『ぼくは勉強ができない」
KEN'S NIGHT M5レフィル<彩色音楽集>
KEN'S NIGHT 2nd Track 9 Round Midnight ※ラメ入り