CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 43rd「ジェントルマン」

 でも、ぼくには見える。きみが自ら選んだこの場所が、二人を最も近づける空間。そこに仮設された懺悔室。その存在が、ぼくには見える。
 告解をするのは、きみ。それに耳を傾けるのはぼく。カソリックと違うのは、ぼくが神父ではなく、迷える子羊の方だということだ。けものの分際で大それたことをしている。そう我に返るたびに哀しみが押し寄せた。
山田詠美「ジェントルマン」より

山田詠美はエッセイにも書いているのだが、ゲイのファンが多い。ぼくの周りでも詠美さんが好きだというゲイの友だちも何人もいて、彼らを詠美さんの朗読会などに誘ったこともある。
そんな山田詠美が正面からゲイのことを描いたのが「ジェントルマン」だ。
しかし、ここが山田詠美らしいところなのだが、ゲイであることを特殊なものとしてとらえているのではなく、あくまでも主人公が男が好きだということだけで、あとは何も変わったことはない。
ただ、ここで描かれているのは、ヒリヒリとするような感情なだけだ。
ノンケ(いわゆるストレートの男性のこと)に恋をしてしまった主人公と、彼を取り巻く人間関係が描かれている。そして、その相手というのが実に悪い男なのだ。
小説のジャンルとしてはピカレスク、つまり悪漢小説だ。
この小説は「小説現代」に一挙掲載されたのだが、ぼくは読み終わった時の衝撃を今でも忘れることができない。
あまりにも衝撃的で、しばらく立ち上がることができなかったほど。
こんな読書体験は一生のうちに何度もあるわけではない。それぐらいにこの小説はぼくにとってショッキングだった。
そして、この作品は実はぼくも少しだけ関わっている。というのも、詠美さんからゲイのことを書くにあたって、いくつか聞きたいことがあるから教えてくれる?と言われて、いくつかのゲイ独特の専門用語やウリ専のシステムなどをお教えしたのである。
そんなこともあり、この作品はぼくにとっても本当に深い記憶に残る作品となった。
そして、この作品が野間文芸賞を受賞したのも嬉しかった。


【DATA】
山田詠美「ジェントルマン」
講談社文庫『ジェントルマン』
KEN'S NIGHT M5レフィル<美酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Track 9 Round Midnight