CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 56th「BAD MAMA JAMA」

 出会いはいつも視線から始まる。自分のことを欲しがる男の視線に女は敏感だ。それが、自分の体だけを欲しがっているのか、おまけに心も欲しいのか、そのくらいを見分ける訓練は充分に積んで来ている。そして、その、欲ばりな視線だけが、他を選り分けて自分の許に届くのだ。受け止めたって構やしない。それがすぐに消えてしまうか、それとも、万が一、結婚まで行ってしまうかは誰にも解らない。
「BAD MAMA JAMA」『カンヴァスの柩』より

山田詠美の初期の作品は、黒人男性との出逢いを描いたものが多い。もちろん、中には日本人男性とのラヴアフェアを描いたものもあるのだが、圧倒的に黒人男性とのそれの方が印象に残る。
でも、今から思えば、それもそのはず…なのだ。
今ならぼくも良く理解できる。だって、山田詠美が描きたい愛の世界というのは、そこにしかなかったのだから。日本人同士の恋愛なんて、きっと物足りなかったのじゃないかと思う。
あまりにもありきたりで。
そして、読者が求めているのは、そういうありきたりの男女の物語ではなく、もっともっと肉感的な関係だった。だから、ぼくたちは夢中になって山田詠美の作品をむさぼるように読み、その世界に憧れた。
この「BAD MAMA JAMA」もそんな作品である。
bad mama jamaを訳すとすると「最高にイカした女」という意味のなるだろうか。
もちろん、このタイトルは、今でもしばしばソウル系のクラブで流れるカールカールトンの名曲から来ている。
そして、昨日ご紹介した「瞳の効用」を裏付けるシーンとして、この場面を取り上げてみた。
出逢いはすべて瞳から始まる。恥ずかしがりやの日本人にはなかなか難しいかもしれないけど、ぜひ、実践して欲しい。まぁ、ぼくみたいに「目ヂカラが怖い」と言われることもしばしば…ですが…(汗)。

【DATA】
山田詠美「BAD MAMA JAMA」
新潮文庫『カンヴァスの柩』
KEN'S NIGHT M5レフィル<祝祭摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 07 Stardust