CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 29th「オニオンブレス」

 ここにいれば、少なくとも彼は一個の人間だった。彼は少しの刺激で泣いてしまいそうに感じていた。たとえ彼が、このよれよれの上着のかわりにタキシードを着ていても、彼の気持は、いつも泣きそうなのだった。

山田詠美「オニオンブレス」より

「オニオンブレス」は『カンヴァスの柩』に収録されている短編小説である。山田詠美の初期の作品で、短い話だが、強烈な印象を読者に与える。
倦怠期の夫婦にしかわからない焦燥感とヒリヒリとした愛情のようなものが読み進めていくうちに伝わってくる。
そして、鮮やかなラストシーン。
短編の名手と言われる山田詠美の真骨頂と言える作品だろう。
詠美のすごいところは、文章の間から夫の玉ねぎくさい匂いが漂ってきそうなところ。
そういったところも含めて、読んで欲しいと思う。

【DATA】
山田詠美「オニオンブレス」
新潮文庫『カンヴァスの柩』
KEN'S NIGHT M5レフィル<彩酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Track12 You'd Be So Nice to Come Home to