CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 47th

 閃きだけでは成り立たないのは、小説も同じであるが、漫画には、もっと別な技術がいるように思う。絵の技術はもちろんんだけど、飽きないでいられる技術っていうのかなあ。上手く言えないけど。私は、漫画を描いていた頃、ストーリーだけで作って満足してしまうので、その後、絵にしなくてはならないと思うだけで、ぶっ倒れそうだった。
「ポンは元漫画家」『誰がために熱血ポンちゃんは行く!』より

山田詠美としてデビューする前、漫画家だったということは意外と知られている話ではあるが、実は本人はあまりその時のこと話したがらない。
なぜなら、絵を描くのが苦手だったから。
だが、実はそれは嘘だとぼくは思っている。
本人は苦手と言っているが、それはあくまでも本人基準。
以前詠美さんの家に編集者たちと遊びに行った時に、酔った詠美さんがいきなり「あんたたちー!あしたのジョーを描きなさい!」と言って、画用紙とペンを用意した。
絵心のないぼくたちは、もう、あしたのジョーどころか、人間ですらない物体を描くことになり、詠美さんが大笑いしたのだが、当の本人の描いた絵は、もう、それはそれは、一目見ただけで「あしたのジョー」で、やっぱり元漫画家なんだ!と感心したのであった。
実際にぼくは山田詠美研究家として、山田双葉時代の漫画も細々と集めているが、確かに粗削りなところはあるが、内容も面白いし、タッチも独特でしっかりしていると思っている。
ともあれ、そんな元漫画家時代の話はエッセイなどにも時々登場するので、そんな詠美になる前の詠美に思いをはせながら読むのも面白いだろう。

【DATA】
山田詠美「ポンは元漫画家」
講談社文庫『誰がために熱血ポンちゃんは行く!』
KEN'S NIGHT M5レフィル<赤色日本景>
KEN'S NIGHT 2nd Track 6 Autumn Leaves