CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 26th「ひざまずいて足をお舐め」

腰、動かすだけなら動物と同じだよ。人間なら、もっと脳みそ使ってセックスしてごらん。五感をフル回転させなきゃね。感覚って使わないと退化して行くものなんだよ。

 

「ひざまずいて足をお舐め」より

小説家になる前、SMのお店で働いたこともある山田詠美の自伝的小説である。
この小説を読んだ母が「詠美さん、よっぽど色々と言いたいことがあったのね。この作品を読むとそれが良くわかる」という感想を述べたことがあった。
昭和14年生まれの母は文学少女で、数多の文学作品を読んできたので、ちょっとやそっとの内容では驚かなかったが、さすがにこの作品は刺激的過ぎたようだ。
でも、それほどまでにこの作品には当時の詠美の様々な世間に対する反発のようなものを垣間見ることができる。
だが、そんなぼくも詠美のことを初めて知った時はそんな世間一般的な意見と似たようなものだったことを今ここで告白する。
山田詠美が『ベッドタイムアイズ』でデビューした時、ぼくはまだ高校生だった。文芸部の先輩たちがこの作品の感想を興奮しながら語り合っている時、彼らは絶賛していたのに、世間的な評価を先に
知っていた僕は読みもしないのに勝手に「黒人とのセックスを描いたみだらな作品」とレッテルを張って遠ざけていた。
まぁ、高校生だったし、セックスのセの字も知らない年齢だったので、偏見を持つのも仕方がないといえば仕方がないのだが…というのはまったくの言い訳なのだが…。
ともあれ、そんな世間に対する詠美のアンチテーゼが織り込まれたこの作品は今読むと、当時の一般的な常識がいかにひずんでいたのか、ということが良くわかる。
社会的な問題としても取り上げられるべき作品と言えるだろう。


【DATA】
山田詠美「ひざまずいて足をお舐め」
新潮文庫『ひざまずいて足をお舐め』
M5レフィル<山荘冬休暇>
1st Bonus Track The First Time Ever I Saw Your Face