CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 18th「トラッシュ」

 何故、リックは、愛を上手くいかせてくれないのだろう、とココは思う。どうして、心まで気持ち良くしてくれないのだろう。そんなのは、簡単なことのように、彼女には思える。側にいて、触らせてくれればいいのだ。側にいて触る。自分の体に彼の心が流れ込むのを感じる。彼女が望むのはそのことだけなのだ。そんな簡単なことを、沢山の人々がやれないでいる。やらないのに欲している。彼女もそのひとりだ。さまざまな男女に共通した不幸。誰も、その解決法を発明していない。

 

山田詠美「トラッシュ」より

山田詠美初となる長編小説『トラッシュ』は、ニューヨークに住む様々な立場の人たちの人間関係を描く意欲作である。
そして、その中にも、詠美らしいフレーズがたくさん散りばめられており、これもまたテキストとしてラインを引きながら読み進めてしまう面白さにあふれている。
上記の文章でも、詠美の永遠のテーマである心と身体の関係を紐解くヒントが隠されている。
恐らく、この人間の心と身体の関係というのは、永遠に解決することはないだろう。ある意味、人間として生まれてきたからには、常に悩まなくてはならない問題なのかもしれない。
それでも、考えずにはいられないからこそ、その一つの手立てとして文学というのが存在しているのだとぼくは常々思っている。

【DATA】
山田詠美「トラッシュ」
文春文庫『トラッシュ』
KEN'S NIGHT M5レフィル<雪景摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Track2 Summertime