CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 36th「ファースト クラッシュ」

 初恋は、しばしば「ファースト ラブ」と訳されるけれども、そこでイメージされる淡い酸っぱい感じとはとは全然違うと私は感じている。少なくとも、私の場合違っていたということだ。可愛らしく微笑ましいものなんかじゃなかった。それは、相手の内なる何かを叩き壊したいという欲望。まさに、クラッシュな行為。

山田詠美「ファースト クラッシュ」より

山田詠美の描く初恋というのは一体どんなものか。
この作品を読むと、彼女の恋愛観というものを垣間見ることができる。初恋というのは、決して甘酸っぱいなんてものじゃない。そんなのは初恋とは呼ばない。もっと衝撃的で、クラッシュなものなのではないか、そんなことをこの作品を読みながら思った。
「ファースト クラッシュ」の面白いのはその構成である。3章からなるこの作品は、1章ごとに主人公が異なり、三姉妹の話になっているのだ。そして、その三姉妹の中心にいるのは力という少年。三人がそれぞれ、色々な形でその力と関わって行く様がこの小説の醍醐味。
この手法は山田詠美の得意とするもので、例えば「明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち」や「血も涙もある」でも同様の手法が取られている。
主人公の視点が変わることによって、物事の見方がこんなにも変わってくるのか、と思いながら読み進めるとより物語が立体的に見えてきて面白い。

【DATA】
山田詠美「ファースト クラッシュ」
文春文庫『ファースト クラッシュ』
KEN'S NIGHT M5レフィル<流星摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Track 8 When I Fall in Love