CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 5th 「夕餉」

私は男に食べさせる。それしか出来ない。私の作るおいしい料理は、彼の地や肉になり、私に戻って来る。くり返していると、どんどん腕は上がる。彼の舌は、私の味に馴染んで、もう、満腹になればそれで良い、なんて言わせない。


山田詠美「夕餉」より


短編小説集『風味絶佳』は谷崎賞を受賞した、これまた傑作の短編集です。どの作品にも共通するのが、特殊な職業に従事する男たちが描かれているところ。ごみの収集であったり、火葬場であったり、下水道の清掃業者であったり。普段の生活の中ではなかなか気づかないような職業の人を丁寧に取材して描いているところがこの作品集の魅力にもなっています。さらにそこに加わるのが、まさに風味豊かな食べ物。それは、キャラメルであったり、手間暇かけて作られた夕食であったり。
そして、「夕餉」にはタイトルの示す通り、夕餉を準備する過程が事細かに描かれている。
詠美さんは料理が得意な人である。(お酒のみは料理が得意だという方程式をぼくは勝手に導き出しているのだが、恐らく、お酒に合う肴が必要となるので、おのずと料理上手になるのではないかと勝手に推察しているのだが)
そのために、編集者たちは詠美さんのレシピ本を出して欲しいと思っているという話を聞いたことがある。
詠美さん曰く「全部目分量で何となく作るから再現性ないのよ。だからレシピなんてあってないようなもの」なのだそうだ。
ともあれ、この『風味絶佳』に収録の作品たちは、そんな食欲をそそられるものばかり。だからお腹が空いている時に読んじゃだめ。ますますひもじい想いをすることになるから!
食後のデザート感覚でゆっくりと読むべし。


【DATA】
山田詠美「夕餉」
文春文庫『風味絶佳』
<用紙&インク>
KEN'S NIGHT M5レフィル<美酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 03 Fly Me to the Moon