CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 276th 熱帯安楽椅子

 私は彼の心に嫉妬することはなかった。ただ彼の肉体に嫉妬していた。私が男を愛する方法。それは体を与えて体を奪うということだったのだ。つたない私を彼はどんなに蔑んでいただろうか。飴玉を取り上げられ拗ねているただの子供。彼はきっと私のことをそう思っていた。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

ここでの「彼」というのは、日本にいる「ひとりだけ選んで愛してしまった」男のことである。
山田詠美の小説にはどれも、心と体の関係というテーマが根底に流れている。それは、デビュー作からずっと一貫している。
心というのは、目に見えないものだ。非常に抽象的で不確かなもの。しかし、体は目に見えるものだから、もっと具体的だ。しかし、どちらかに執着してしまうと、バランスを崩してしまう。
だから、嫉妬という感情が生まれるのではないだろうか。
そんなことをこの文章から思った。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<祝祭摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 11 Smile ※ラメ入り