CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 277th 熱帯安楽椅子

 肉体が心を支配した。それに気付いた女は、どれ程自分を哀しく感じるか、男たちは知っているだろうか。どうしてなのだろう。私はひとりきりでそう考えていた。あの自分の体に快楽を与えいていただけの棒がいったい何故、こんなにも私をせつなくさせるのだろう。あの寂しさを埋めるだけの海綿が、何故、こんなにも重大な意味を持つのだろう。私は自分をせせら笑う。そして、冷静になる。その後、静まった心の内側から哀しみはまた姿を現わすのだ。私は男の脚の間に男の心が溶けているとでも思い込んだのだろうか。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

ここでもまた肉体と心の関係が執拗に描かれている。体を重ね合わせるたびに情が生まれ、そこから離れられなくなっていく。そして、そこに嫉妬心が生まれ、相手を束縛し、そしてそれによって自分をも束縛することになる。その過程をこのように言語化し、そして、それをバリ島という特殊な南国の島を舞台に描いているところにこの作品の面白さがある。
日本で別れを告げた男と、バリ島で知り合ったワヤンという男という二項対立を生み出すことで、その問題を解決しようとしていて、そこに読者は共感するのだ。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<彩酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Bonus Track Frozen