CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 155th 間食

 溢れちゃいそうな気がする。そんなことを腕の中で呟くものだから、何が? と雄太は尋ねた。あたしに注いでくれる雄太の愛情のことだよ。嫌なの? と不安になってうかがうと、全然嫌じゃない、とうっとりして答えたから安心した。もっともっと、と言うので、解った、もっともっとだね、と引き受けた。この余裕。自分が偉い人間になった気がして仕方ない。欲しくてたまらなかったものにようやく手は届いた。好きだ。
山田詠美「間食」
『風味絶佳』より

文芸誌にこの短編が掲載された時、ぼくはまっさきに「なんて瑞々しい文章なんだろう!」と驚いた。そして、『風味絶佳』という短篇集として他の短編と一緒に読んで、この『風味絶佳』全体にその瑞々しさが漂っていると感じた。
相手のことが好きで好きでたまらなくて、その愛情があふれてしまうと感じることがある。逆に、相手の愛情をもっともっと受け止めたいと願うことも。そんな二人の感情を描いたシーンは、恋愛から遠ざかっているぼくにはとても羨ましい。
【DATA】
山田詠美「間食」文春文庫『風味絶佳』
KEN'S NIGHT M5レフィル<祝祭摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 06 My Favorite Things