Day 120th「マーヴィン・ゲイが死んだ日」
この人は、姉の死をどのように取り扱って明るさを取り戻したのか。いや、思えば、通夜の時から明るかった。明るく嘆き悲しんでいた。その様子が、周囲の人々の心を重苦しさから救ったのは確かだ。一家にひとりいたら迷惑かもしれないが、一族にひとりいたら、こんな心強いことはない。
「マーヴィン・ゲイが死んだ日」『タイニーストーリーズ』より
母を50歳で亡くした主人公と、その家族をめぐるストーリーなのだが、ここに登場する叔母(亡くなった母親の妹)の久美叔母さんというのが、実に魅力的な人で、実は、詠美の小説にはしばしばそういうちょっと面白い人が登場する。
でも、この作品に登場する人物がみんな魅力的なのだ。妻を亡くして、すっかり意気消沈している父親も、そんな父親を慰める一人息子も、そして、そのふたりを取り囲む人物たちの会話から繰り出される、マーヴィン・ゲイやジョン・レノンなどの話も、いろんなエピソードと絡まり、物語を紡いでいき、一人の死を明るく描いている。
人間いつか死ぬものである。それをどうやってとらえたら良いのか、ということがこの作品から垣間見ることもできて、ぼくは、この短編も大好きなんである。
【DATA】
山田詠美「マーヴィン・ゲイが死んだ日」
文春文庫『タイニーストーリーズ』
KEN'S NIGHT M5レフィル<美酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Bonus Track I Feel Pretty