CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 33rd「唇から蝶」

 彼女はカップを、日差しにかざした。ワインには光の粒が沢山溶けているように見えた。
「一杯の川の水と一杯のワインにはどちらにいっぱい太陽が入ってるでしょうか」
 ぼくは首をかしげて彼女を見た。
「わかんないの?」
「きみはわかるの」
 彼女や首を横に振った。
「でも、ワインだと思うな。私は、ちゃんと飲めるものが大事だもん。ほうら、太陽を飲んでやるぞ」
 そう言って、彼女はワインをひと息に飲み干した。ぼくは、驚いて、彼女を見詰めた。

「唇から蝶」より

実に不思議な作品である。
青虫を唇に飼っているという女性と付き合うことになった冴えない男の話なのだが、その青虫というのが比喩でもなんでもなくて、本当に唇が青虫だというのだ。
ちょっとファンタジーというか、ミステリアスというかそういう作品なのであるが、これもまたラストに向けて話が進んでいくと、この二人はどうなるんだろう?とハラハラしながら読み進めていくことができる。
山田詠美は、こういうちょっとミステリアスというか、大人の怪談ともいえる作品も時々書いていて、そこも詠美ならではと言えるだろう。
ぼくはお酒をほとんど飲めないので、この太陽のいっぱい入っているワインがどんな味なのかわからないのだが、それでも何となく彼女の言っている「太陽を飲んでやるぞ」というセリフを読んで「さぞかし美味しいんだろうな」と羨ましくなった。

【DATA】
山田詠美「唇から蝶」
幻冬舎文庫『120%COOOL』
KEN'S NIGHT M5レフィル<方眼円盤集>
KEN'S NIGHT 2nd Remix Frozen Meltdown Mix